咬合性外傷とは


  • 咬合性外傷は特に歯周病の場合に問題となります。
  • 噛み合わせの治療が必要になります。
  • 顎がずれてしまっている場合は、顎のずれを治すのとあわせて噛み合わせの治療が必要になります。
  • 睡眠時の歯ぎしりや食いしばりが一番の問題になります。
  • 歯ぎしりする際のかみ合わせをしっかりと調整する必要があります。
  • 歯が揺れてしまっている場合は、固定する必要がある場合があります。
  • 抜歯になる可能性が非常に高まります。

  1. オープンバイト
  2. ディープバイト
  3. 八重歯
  4. 反対咬合
  5. 2級咬合

 

咬合力によって生じる深部歯周組織(セメント質,歯根膜および歯槽骨)の傷害である.歯肉に 炎症が存在しない場合にはアタッチメントロスは生じず,エックス線により歯根周囲の骨不透過 像が認められる.歯周炎の存在下に過度な咬合力が加わると歯周組織の破壊は増長する(18 頁「6. 咬合性外傷の特徴」参照). 

咬合性外傷の診断法  咬合性外傷は咬合力により生じる深部歯周組織(セメント質,歯根膜,歯槽骨)の傷害であり, 健全な歯周組織に過度な咬合力が加わり生じる一次性咬合性外傷と,歯周炎による組織破壊の結果, 支持歯槽骨が減少して生じる二次性咬合性外傷に分けられる.咬合性外傷は 1 歯単位の診断名であ る.  咬合性外傷が認められる歯において動揺度が 1 度以上あり,かつエックス線所見で歯根膜腔の拡 大,骨吸収が認められる歯については,咬合性外傷と診断する.その他の所見としては,①過度の 咬耗,②歯の病的移動,③歯の破折,エックス線所見での④歯槽硬線の消失・肥厚,⑤歯根吸収を 伴うことがある.

外傷性咬合力 (1)一次性咬合性外傷 (2)二次性咬合性外傷 (3)矯正力

 咬合性外傷は,外傷性咬合(過度な咬合力や側方力などの異常な力)によって引き起こされる深 部歯周組織,すなわちセメント質,歯根膜ならびに歯槽骨の傷害であり,一次性と二次性に分類さ れる.  病理組織所見では歯根膜の圧迫部の変性壊死や歯槽骨の吸収などであり,主要な所見としては, 歯の動揺とエックス線画像における歯根膜腔の拡大および垂直性(楔状)の骨吸収像である.  歯周炎存在下では歯周組織の破壊を増加させる因子となる. (1)一次性咬合性外傷  一次性咬合性外傷とは,歯に過度な咬合力が加わることによって歯周組織に外傷が生じたもので ある. (2)二次性咬合性外傷  二次性咬合性外傷とは,歯周炎の進行によって支持歯槽骨が減少して咬合負担能力が低下した歯 の歯周組織に生じる外傷であり,生理的な咬合力によっても引き起こされる.

咬合性外傷を引き起こす咬合を外傷性咬合とよび,その原因は,歯列不正,早期接触,咬頭干渉, ブラキシズム,過剰な咬合力,側方圧,舌と口唇の悪習癖,食片圧入などである.

 咬合調整とは,外傷性咬合を是正することによって,咬合時の歯周組織に加わる咬合力の負担を 軽減し歯周組織の炎症を鎮静することである.歯を選択的に削合することによって,咬合力を多数 歯に均一に分散させ,歯軸方向へ力が伝わるようにすることで,より正しい歯の接触関係を保ち, 歯周組織の安定をはかる治療法である 4)が,歯の動揺などの症状がみられない場合には,早期接 触歯をすべて調整する必要はない.  咬合調整の目的は,歯周組織に生じた咬合性外傷の改善を第一としているが,さらに顎関節症や ブラキシズムの改善,歯冠修復後や矯正治療後の咬合の安定化,食片圧入の改善,矯正治療を障害 する早期接触の除去も含まれる.  歯冠形態修正とは 5) ,歯冠形態の不良により生じる外傷性咬合を除去および分散を目的に辺縁隆 線や歯冠の頰舌径の修正,あるいは咬頭斜面,咬頭などの歯冠部形態の修正を行うことである.  これは早期接触が存在しなくても行うが,咬頭嵌合位の接触部は必ず保存し,側方圧のかかる部 分や広い面接触の部分を削合して,咬合力を軽減する.  しかし,歯の削合という行為は不可逆的な行為であることから,十分に咬合状態を検査した後, 患者に必要性などを十分に説明し同意を得た後に適切な削合を行う必要がある.  また,口腔衛生状態の不良により歯周組織に炎症のある歯は,炎症に伴い歯が移動していること があり,炎症の改善により正常な位置に戻ることがある.したがって,炎症があるときには重度の 表 11 咬合性外傷の臨床およびエックス線画像による所見(1999 年 AAP 歯周疾患の分類を改変) 臨床所見としては,以下のうち 1 つまたは複数が含まれる 1)歯の動揺の増加 2)早期接触 3)著しい咬耗 4)深い歯周ポケットの形成 5)歯の病的移動 6)アブフラクション(くさび状欠損) 7)歯の破折 エックス線画像による所見としては,以下のうち 1 つまたは複数が含まれる 1)歯根膜腔の拡大 2)歯槽硬線の変化(消失,肥厚) 3)骨の喪失(根分岐部,垂直性,全周性) 4)歯根吸収 5)セメント質の肥厚 49 外傷性咬合部のみ調整し,少なくともプラークコントロールなどにより,炎症が消退した後に精密 な咬合調整を行う

 

特定非営利活動法人 日本歯周病学会編 『歯周治療のガイドライン 2022』

 咬合性外傷は,外傷性咬合によって引き起こされる歯周組織の破壊であり,大きく一次性咬合性 外傷と二次性咬合性外傷とに分けられる(18 頁「6.咬合性外傷の特徴」参照).咬合性外傷では 病理組織学的変化として,歯根膜の圧迫部での変性壊死や歯槽骨の吸収を伴う(表 11).歯周治療 にあたっては,まず咬合性外傷の有無を的確に診断し(31 頁「2)咬合性外傷の診断法」参照), 咬合性外傷に対する処置の必要性を見極める.咬合性外傷に対する治療は,垂直的および水平的な 外傷性咬合 1)を除去し,安定した咬合を確立させる.これにより,咬合性外傷によって増悪した 歯周組織の破壊を軽減するとともに,歯周炎により低下した歯周組織の機能を回復することを目的 とする.表 11 に咬合性外傷の所見を示すが,「歯の動揺」と「歯根膜腔の拡大」が重要である 2) .

1)咬合性外傷と歯周炎の進行との関係について  外傷性咬合は歯周炎の初発因子ではないが,歯周炎を進行させる重要な修飾因子である 3) .咬合 性外傷に対する治療は,外傷性咬合を除去し,安定した咬合を確立させ,咬合性外傷によって増悪 した歯周組織の破壊を軽減することを目的とする.  咬合調整や固定は,まず細菌感染に対する処置を行ったうえで,明らかに咬合性外傷の症状や徴 候が認められた場合に行うことを原則とする.具体的には以下のとおりである.  ① 細菌感染に対する歯周基本治療を行う.なお,機能障害がある場合は,咬合調整を優先させ ることがある.  ② 細菌感染に対する歯周基本治療を行うことで,炎症が消退し一部の歯では動揺が減少するが, 一部の歯では相変わらず動揺が存在するか,または動揺が増加する場合に,咬合調整か固定 を行う.  ③ 動揺が改善しない歯は,咬合調整や固定を行う.  ④ 動揺が増加している歯は,咬合調整や固定を行う.  しかしながら,重度の歯周炎患者においては 1 歯から数歯に限局した咬合調整,歯冠形態修正, 暫間固定などで治療効果が認められない場合,広範囲

2)咬合調整と歯冠形態修正  咬合調整とは,外傷性咬合を是正することによって,咬合時の歯周組織に加わる咬合力の負担を 軽減し歯周組織の炎症を鎮静することである.歯を選択的に削合することによって,咬合力を多数 歯に均一に分散させ,歯軸方向へ力が伝わるようにすることで,より正しい歯の接触関係を保ち, 歯周組織の安定をはかる治療法である 4)が,歯の動揺などの症状がみられない場合には,早期接 触歯をすべて調整する必要はない.  咬合調整の目的は,歯周組織に生じた咬合性外傷の改善を第一としているが,さらに顎関節症や ブラキシズムの改善,歯冠修復後や矯正治療後の咬合の安定化,食片圧入の改善,矯正治療を障害 する早期接触の除去も含まれる.  歯冠形態修正とは 5) ,歯冠形態の不良により生じる外傷性咬合を除去および分散を目的に辺縁隆 線や歯冠の頰舌径の修正,あるいは咬頭斜面,咬頭などの歯冠部形態の修正を行うことである.  これは早期接触が存在しなくても行うが,咬頭嵌合位の接触部は必ず保存し,側方圧のかかる部 分や広い面接触の部分を削合して,咬合力を軽減する.  しかし,歯の削合という行為は不可逆的な行為であることから,十分に咬合状態を検査した後, 患者に必要性などを十分に説明し同意を得た後に適切な削合を行う必要がある.  また,口腔衛生状態の不良により歯周組織に炎症のある歯は,炎症に伴い歯が移動していること があり,炎症の改善により正常な位置に戻ることがある.したがって,炎症があるときには重度の 表 11 咬合性外傷の臨床およびエックス線画像による所見(1999 年 AAP 歯周疾患の分類を改変) 臨床所見としては,以下のうち 1 つまたは複数が含まれる 1)歯の動揺の増加 2)早期接触 3)著しい咬耗 4)深い歯周ポケットの形成 5)歯の病的移動 6)アブフラクション(くさび状欠損) 7)歯の破折 エックス線画像による所見としては,以下のうち 1 つまたは複数が含まれる 1)歯根膜腔の拡大 2)歯槽硬線の変化(消失,肥厚) 3)骨の喪失(根分岐部,垂直性,全周性) 4)歯根吸収 5)セメント質の肥厚 49 外傷性咬合部のみ調整し,少なくともプラークコントロールなどにより,炎症が消退した後に精密 な咬合調整を行う.

3)暫間固定  暫間固定は咬合性外傷を咬合調整のみでは改善できない場合,歯の動揺が強くみられる場合,歯 周組織が破壊されて二次性咬合性外傷を生じやすい場合に行う 6) .  暫間固定は当該歯を周囲の歯と連結することにより,歯周組織に対する咬合圧の分散と安静をは かり,咬合性外傷を改善したり,破壊的応力を避けるために行う.暫間固定は一定期間固定を行っ て歯周組織の変化を観察する目的で行う.歯の動揺などが著しく,咬合,咀嚼などの機能障害があ るような場合には,早期に暫間固定を行い咀嚼機能の改善を行う必要がある.一般にはプラークコ ントロールによる歯肉の炎症の改善,および咬合調整によっても咬合の安定が得られない場合に行 う.また,歯周外科治療後の侵襲により一時的に歯の動揺が増加し,治癒に影響を及ぼすことが考 えられる場合には,術前に暫間固定を行い,術後に歯周組織の安定および動揺の改善を待って固定 を除去する.このように,暫間固定の時期,期間,方法を決めるには,歯周組織の破壊の程度や広 がり,歯列弓上での動揺歯の位置関係などを考慮する必要がある. 【暫間固定を行ううえでの注意事項】  ① 暫間固定前後に咬合調整を十分に行う.  ② 暫間固定装置が口腔衛生管理を阻害しないようにする.  ③ 定期的な観察や管理が必要で,とくにプラークコントロールの状態,早期接触の有無,さら に固定装置の破損などのチェックを行う.  ④ 十分な歯周組織の安定が得られた場合には暫間固定を除去し,その状態によって永久固定へ の移行を検討する.  暫間固定の術式は種々存在するが,固定部位にかかる咬合力に十分耐えうるような暫間固定法を 選択する.

4)歯周治療用装置(プロビジョナルレストレーション)  歯周病患者において欠損歯が存在するときや抜歯や不適合修復物・補綴装置の除去を行う症例で は,歯周治療中に,まず咬合機能と審美性を回復するために,暫間的な補綴治療を行う場合がある. これらの装置は,歯周治療中の咀嚼障害,審美障害を改善したり,残存歯への咬合力の負担を軽減 する目的で製作するもので,歯周治療用装置とよばれ,義歯床形態あるいは冠(クラウン)形態の 装置がある 7) .不適合修復物・補綴装置が歯周病の発症に大きくかかわっている場合には,歯周基 本治療中において,不適合修復物・補綴装置を除去して,代わりに歯周治療用装置を装着すること で歯周組織の安定をはかる.また,欠損歯が存在し咀嚼障害を引き起こしている場合,残存歯数の 減少により二次性咬合性外傷を引き起こしている場合においても歯周基本治療中に歯周治療用装置 を装着し,咀嚼,咬合の回復によって,歯周組織の安定をはかる必要がある.とくに治療が長期間 に及ぶと予測される患者については,歯周治療を進めるうえで歯周治療用装置は重要であり,少な くとも歯周外科治療を行う前には歯周治療用装置の装着が行われている必要がある 8) . 【歯周治療用装置の注意事項】  ① 咬合や審美性の回復だけでなく口腔衛生管理が容易に行えるような形態に設計する.歯周治 療用装置(冠形態)は歯肉縁上マージンが歯周管理上望ましい.また歯冠のオーバーカントゥ アを避け,歯間ブラシが使用できるよう歯間空隙の大きさに注意する.  ② 歯周治療用装置装着中の歯周組織の状態を十分に観察し,再発の危険のある部位の把握,適 切な形態などを考慮し,最終補綴装置の設計に反映させる.  ③ 歯周治療用装置の定期的な管理,すなわち調整,修理,および口腔衛生指導などを行う.

5)ブラキシズムの治療  ブラキシズムとは,咀嚼筋群が異常に緊張し,咀嚼,嚥下および発音などの機能的な運動と関係 なく,非機能的に上下の歯を無意識にこすり合わせたり(グラインディング),くいしばったり(ク レンチング),連続的にカチカチと咬み合わせる(タッピング)習癖である.すなわち上下の歯の 間に食物がない状態で行われ,強い咬合力,とくに側方力が歯に加わるため,歯周組織に咬合性外 傷を引き起こす危険性がある.歯周炎に,ブラキシズムによる咬合性外傷が合併すると病変が急速 に進行し,短期間に重度の歯周炎へと発展しやすい.  治療は,ブラキシズムの原因と考えられる局所的因子(早期接触などの咬合接触の異常)と全身 的因子(精神的ストレスなど)を取り除くことが基本となる 9) .  しかし,ブラキシズムの原因や成り立ちは十分に解明されておらず,個人差も大きく,治療がむ ずかしいのが現状である.そこでまず,原因となる早期接触部のみを削合する小範囲の咬合調整や, オクルーザルスプリント(歯ぎしりに対する咬合床)の装着を行って経過を観察する.最初から広 範囲な咬合調整やオーラルリハビリテーションなどの不可逆的な治療を行うことは避けるべきであ る.  また,睡眠中のブラキシズムに対しては,就寝前にブラキシズムをしないことを自分に言い聞か せる自己暗示法を行うことがあるが,睡眠時ブラキシズムの原因には多くの因子が関連していると 考えられ,現時点で睡眠時ブラキシズムを効果的に抑制できる定型的な治療法はない.

6)矯正治療  プラークコントロールを妨げる歯の位置異常が存在する場合,あるいは歯列不正による咬合性外 傷が明らかな場合には,矯正治療を行うことで歯周治療の効果を高めることができる 10) .しかし, 矯正治療が困難な歯槽骨の吸収が著しく進行した症例もあり,適応症を選んで行う必要がある.矯 正を行う時期は歯肉の炎症が改善され歯周組織の安定が得られていることが必須であり,基本的に は歯周ポケットの除去が行われた後が望ましい.歯列不正が細菌性プラークの蓄積の原因だからと いって,歯周治療が不十分な早期に矯正治療を行うと,歯周組織の破壊を促進することもある.また, 矯正治療後の咬合調整は必須であり,最終的なバランスの取れた咬合状態を獲得することと,その 後の経過観察が重要となる.矯正治療により歯列が改善されると,口腔衛生管理が容易となり歯周 組織の維持安定に効果的である.